遠方からの来客でした。
相談者は声のトーンからして憔悴しきって、電話口では魂の抜けたような感じに思えました。
来室されて玄関でお顔を見た途端
「キツネ!!」
彼女にはたくさんのキツネがまとわりついていたのです。
私の家の玄関には結界が張ってあり、それなりのモノはその場から中には入れないように工夫してありますが、あまりの多さにこちらもビックリ。
その中でも力のありそうなキツネが数匹無理やり家に上がり込みました。
「除霊をしてください」
とおっしゃる相談者に、これまでの経緯などをお聞きしながらもキツネたちがどのように反応するかを注意深く観察しておりましたところ、あろうことか、このキツネたちは相談者自らが招き入れた、いわゆる「願いギツネ」だという事がわかったのでした。
「願いギツネ」とは?
ご本人の最初の主旨とは裏腹に、願いとは真逆の事をけしかけてくるキツネの事です。
確かにご本人の最初の願いがあったにも関わらず、その願いがあまりに叶わないためにその願いが反対に作用してしまったのでした。
今回の相談者の事例で説明した方がよいでしょう。
相談者の気持ちの奥底にはご自分の水子に対する「後悔と懺悔」の念がありました。
しかしどんなに供養しても水子が離れない、どの占い師に視てもらっても「水子が祟っている」と言われる有様。
始めこそ「私が犯した罪だから、しっかり供養しなくては・・・」と頑張ってしまったのでしょう。
いろいろな占い師の所に行ったそうですが全く水子は成仏する様子はなく、いつまでも自分から離れてくれないと思っていたそうです・・・いえ、「思わされていた」のです。
占いに頼りすぎたが故、本来の目的を見失ってしまった相談者はついに水子が「祟る」水子を「祓う」「除霊する」という占い師の言葉にのめり込んだのでした。
本来「霊」に対しては「供養し成仏してもらう」対象として扱わなければなりません。
漫画のように「強制成仏」やら「消滅させる」などという事は出来ないのです。
そのような流れにより相談者の気持ち、心が壊れて行ったのがこのキツネたちには格好のごちそうだったのでしょう。
うれしそうにしっぽをブンブン振っています。
相談者はある日から急に虚無感に襲われ、それ以降顔に表情が現れなくなったとの事。
今までのように笑いたい、と真に願っているお辛い気持ちが伝わってきました。
私は「あなたはすでに水子さんを供養していますが、それをずっと引きずっていますね。30年もの長きに渡って水子さんを供養し続けていますが、本当はそんなに長く供養をやってはいけなかったのですよ。」といいますと、
「なんで??!!供養は必要だし、堕ろしたことの罪悪感くらいあります。水子の戒名を書いてもらったのでそれにむかって毎日毎晩床に頭をこすりつけて謝っているのに、まだ水子は私を恨んでいて私をこんな状態にさせてしまったんです。水子が憎い、私をこんなにまで叩きのめした水子が憎い!!だから除霊してもらいに来たんです。」
彼女は語気を荒げて一気に話ました。
「水子さんは今まで十分に供養され、もう次の生まれ変わりをする時期になっているのに、そうやって供養を続けることは水子さんをあなたの念に縛り付けているのと同じです。もう自分自身に対しても許す気持ちを持ってください。そうすれば水子さんが祟る事はありませんから。」
そう話をしましたが納得できないというお顔をなさり、
「いえ、今までいろいろな霊能者の所にいってお祓いを受けましたが誰もそんな事言いませんでしたよ!だって、これは水子の祟りだから!」
と聞く耳を持ちません。
では・・・と、私は気を取り直し
「今から神棚を拝みます。その時、気持ちを素直に持っていてください。水子さんの気持ちを神様から伝えていただきますから水子さんの気持ちを聞いてあげてください。」とお話しし、祝詞。
彼女は一心に手を合わせていましたが、祝詞が進むにつれ背後から嗚咽が聞こえてきました。
・・・水子さんの気持ちが伝わったかな?・・・
なおも祝詞。
祝詞奏上が終わる頃には嗚咽もしなくなっていました。
「どんな感じでしたか?」とお聞きしますと、
「私、バカでした。水子のことは一生かけて悔やんで懺悔して供養して行かなければならないことだと思っていました。でも、水子達が私を許してくれているとわかりました。水子は私の身勝手な気持ちに縛られて、生まれ変わりが出来ない状態だったとわかりました。本当にすみませんでした。私はこれからどうしたらいいでしょうか?」
ようやく彼女の気持ちがほぐれ、本当の意味で「お母さん」となりました。
気が付くとそれまで彼女の周りで嬉しそうに飛び跳ねていたキツネたちは姿を消し、彼女の顔にはにこやかな笑顔が戻ってきました。
「もう十分供養をして来ましたしすでに成仏を待っている状態ですから、あなたが水子さんの幸せを願い、今度は幸せな所に生まれ変わってね、と願ってあげればいいんですよ。」とアドバイスし、その日の内に成仏の儀を執り行い、水子さんは彼女の元から輪廻の輪の中に入って行きました。
そして彼女は晴れやかな顔で帰路に就いたのでした。
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